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膝関節伸展制限が歩行にもたらす影響

足部

2023.01.28

膝関節は完全伸展時に最も安定する関節です。

何らかの要因で膝関節伸展制限を伴うと、関節面の接触面積が小さくなるため、関節安定性が欠如していきます。

歩行において、膝関節伸展は非常に重要な動きとなります。

今回は、変形性膝関節症(以下、膝OA)の方の姿勢や歩行の特徴を交えてお話ししていきます。

 

OAの方のアライメントを確認すると、多くの方が伸展制限を伴っています。

まず、伸展制限因子としては、半月板や靭帯の軟部組織の損傷、軟部組織の炎症・疼痛、関節軟骨の変性、骨・関節のアライメント不良・変形、筋萎縮・筋力低下等が挙げられます。

膝関節は、顆状関節で関節窩は浅く、関節運動は靭帯により制動される関節です。また、隣接する足関節、股関節の動きやアライメントの影響を受けやすい関節でもあります。このような面から、膝関節は不良肢位の状態で使い続けると損傷しやすい関節であることが言えます。

膝関節伸展制限を伴う方の多くが以下の写真のような姿勢をとります。

内反膝の立位アライメントを例に挙げると、膝関節屈曲・内反、骨盤後傾、腰椎の前弯減少、胸椎の過度な後弯、頭部が前方に位置するヘッドフォワードを伴う肢位が特徴となります。足部に関しては、下腿の外旋、外方傾斜に対して、回内足を伴うことが多くなります。膝関節の内反が強まると、下腿近位は外旋のストレスが加わり、下腿遠位では逆に内旋のストレスが加わることになります。膝関節伸展制限と膝関節内反が強まることで膝関節不安定性が増します。その不安定性を代償するために回内足(又は外反扁平足)を助長していきます。

では、このような姿勢で歩くとどのような歩容になるのか?

歩行周期では以下の特徴が挙げられます。

 

  • ・ICで膝関節屈曲位(伸展制限)
  • ・MStにかけて膝関節内反が強まる(ラテラルスラスト)
  • ・TStPSwにかけて膝関節、股関節の伸展が不十分

 

ICでは、膝関節軽度屈曲位(5°)が正常とされますが、5°以上の伸展制限がある場合、歩幅が減少し、床面に対して足底を水平に近い状態で接地します。踵接地が不十分だと、ヒールロッカー機能が効果的に働きません。本来は足関節回外位でやや踵骨の外側から床面に接地しますが、膝OAの方の場合、回内を保持したまますり足様の歩行になるため前方への推進力が上がりません。

 

Mstでは、立脚側への骨盤の平行移動に伴い、股関節内転位になることで安定性を確保できるが、内反膝では、骨盤の左右への平行運動が減少する代わりに膝関節にラテラルスラストが強調され、前方への推進力が側方へ力が分散してしまいます。

 

TSt〜PSwでは、前方への推進力を上げるために股関節伸展がしっかり確保できることが重要となります。膝関節の伸展が不十分で、前足部での支持が不安定だと、前足部の回転軸であるフォアフットロッカー機能が働かず、十分な歩幅を確保することができません。

以上、上記に挙げた特徴の歩容では、歩幅が減少し、前額面上の左右への身体移動が増幅し、前方への推進力が著しく下がります。

冒頭で述べたように、膝関節の伸展制限があると関節安定性は低下し、身体の側方動揺が大きいと膝関節内反方向への力が強く働くため、膝関節の内側に圧縮ストレスや剪断力がかかり変形を助長してしまいます。

このように膝関節伸展制限は構造的変化を与えるだけでなく、歩行動作効率にも大きな影響を与えますので、できるだけ早期に改善する必要性があります。

 


理学療法士 井上雄太

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